「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」という、美しい女性を花になぞらえた言葉がありますね。確かに、真っ直ぐに茎を伸ばして凛と咲くユリの姿は、背筋を正して立つ清楚な女性のように見えるものです。
ユリは世界中に広く分布しており、約130もの品種があると言われています。結婚式のブーケなどに多く使われることから、ユリというと白色を連想する方も多いのですが、色のバリエーションも実に豊かな花です。
さて、皆さんもご存知のとおり、花はそれぞれのイメージや伝説などを元にして作られた「花言葉」を持っています。花束をプレゼントする際には、贈る相手やシーンに合わせた意味を持つ花を選ぶことで、より一層心のこもった贈り物となることでしょう。
進学や就職などで新たな門出を迎える春は、特に花を贈る機会の増える季節ですよね。そこで今回は、ユリの花の持つ様々な魅力とともに、その美しい花姿に込められた花言葉をご紹介したいと思います。
ユリの花について
それでは初めに、花言葉の意味をより深く理解していただくために、ユリの花に関する知識をご紹介していきたいと思います。
ユリの花の特徴
- 英名:Lily(リリー)
- 和名:百合(ユリ)
- 学名:Lilium(ラテン語でユリの意)
- 科・属名:ユリ科ユリ属
- 原産地:北半球の亜熱帯、温帯、亜寒帯
- 開花時期:5月~8月
ユリは北半球のアジアを中心に、ヨーロッパや北アメリカなどの亜熱帯・温帯・亜寒帯と、世界の広い地域に分布している植物です。
開花時期は品種によって異なりますが、おおむね春の終わり頃から夏にかけて、大ぶりな鐘形の花を咲かせます。その豪華な花姿のみならず、甘く濃厚な香りも特徴的で、香水の原料としても用いられています。
花名の由来
「ユリ」という花名の由来は諸説あるとされていますが、茎が細く花が大きいために、風に吹かれると自然に花がゆらゆら揺れる様子から「揺すり」と呼ばれていたのが変化した、という説がもっとも有名です。
また、漢字表記の「百合」は、ユリの球根がたくさんの鱗片(りんぺん)で覆われている様子を表したものだと言われています。
ユリの種類
冒頭でもお伝えしたとおり、ユリは原種だけでも100種類以上と非常に多いのですが、原種を元にした品種改良によって誕生した園芸品種も100種類以上存在するのだそうです。
園芸品種も含め、ユリ属の植物は1925年にWilson,E.H氏が発表した4つの亜属に分類されています。
■ヤマユリ亜属
漏斗状(ラッパ型)の大きな花を横向きに咲かせるのが特徴で、甘く濃厚な強い香りを発するものが多くあります。この系統の原種であるヤマユリは、日本の固有種として有名です。
■テッポウユリ亜属
花の形は細長い筒状で、花びらの先端が外側に開いているのが特徴です。原種であるテッポウユリは南西諸島や九州南部が原産で、沖縄地方では群生する自生種が見られます。
■カノコユリ亜属
花びらが外側に大きく反り返ったつり鐘状の花を、やや下向きに咲かせるのが特徴です。鮮やかな赤系の色味で、ユリの中でも派手な印象を与える品種が多くあります。
■スカシユリ亜属
花びらの付け根がやや細く花の中が透けて見えることから、この和名がつけられたのだそうです。大きめの花を上向きに咲かせるのが特徴で、世界中の広い地域に分布しています。
食用としてのユリ
ユリの球根は「ユリ根」と呼ばれており、日本ではヤマユリ、コオニユリ、オニユリの3品種が食用として栽培されています。お正月料理で食べたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、中国ではユリ根を乾燥させたものを「百合干」と呼び、水戻しして炒め物の具材にしたり、すりおろして汁物にとろみをつけるのに利用しているのだそうです。
さらに、百合根は「百合(びゃくごう)」という生薬でもあり、咳や動悸を静める作用があると言われています。
ユリの誕生とギリシャ神話
アネモネやバラなど、誕生の起源をギリシャ神話に持つ花は多く、ユリもその一つです。簡単ではありますが、ここでご紹介しておきましょう。
■浮気者のゼウス
ギリシャ神話における最高神ゼウスは、神々の王として君臨する立場でありながら、妻以外の何人もの女性と浮気を繰り返す好色家としても知られています。
ある時、ゼウスはアルクメーネという美しい王女に恋をしました。この時のゼウスには、結婚や母性、貞節を司る最高位の女神ヘラという三番目の妻がいます。アルクメーネにもまた夫がいますので、現代で言う「W不倫」の関係ですね。
■英雄ヘラクレスの誕生
ゼウスはアルクメーネの夫の姿に変身して彼女に近付き、3日も太陽を昇らせずに情事を楽しんだそうです。そうして生まれたのが、後に英雄となるヘラクレスでした。
このヘラクレスという名は、「ヘラの栄光」という意味があります。ゼウスは赤ん坊がヘラに気に入られるようにこの名前を授けたと言いますが、夫に浮気をされたヘラにとっては当然面白くありません。
■乳の雫から咲いた花
ゼウスはヘラクレスに不死の命を与えようとしますが、そのためには正妻であるヘラのお乳を飲ませなくてはなりませんでした。そこでゼウスは、眠っているヘラの乳首をヘラクレスに吸わせます。しかし、その力があまりに強かったため、痛みで目覚めたヘラは思わず赤ん坊を突き飛ばしてしまいます。
既に溢れ出していたヘラのお乳は飛び散り、天高く昇った雫は天の川となり、地に落ちた雫は白い花を咲かせました。この花こそが、まさにユリというわけです。
こうして誕生したユリは、結婚を司る女神ヘラの聖花とされ、古代ギリシャの人々は結婚式の際に花嫁の頭をユリで飾ったと言われています。
色別・ユリの花言葉
さて、ここからはユリの花言葉についてお話していきたいと思います。
冒頭でもお伝えしたとおり、ユリは色数がとても豊富な花です。そして花の色ごとに、それぞれ異なる花言葉を持っています。
《白》純潔、純粋、無垢、威厳
白いユリの花は、結婚式場の装飾や花嫁のブーケとしても人気です。ウェディングドレスとの相性が良いばかりでなく、「純潔」という花言葉もまた結婚という儀式にふさわしいものですよね。
白いユリの花言葉は、キリスト教と深い関係があります。
イエス・キリストの母であるマリアは、処女懐胎でキリストを産みました。受胎を告げるためにマリアの元を訪れた天使ガブリエルは、その手に白いユリを携えていたそうです。このことから、キリスト教において白いユリの花は「純潔」のシンボルとされています。
なお、この様子はレオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」をはじめとする、多くの宗教画に描かれています。
さらに17世紀には、ローマ教皇が聖母マリアの処女性を象徴する花として白い百合を描くよう布告を出すと、白いユリは聖母を象徴する花となり「マドンナ・リリー」と呼ばれるようになりました。
また、「威厳」という花言葉は、ユリの堂々とした花姿そのものが由来とされています。
《赤・ピンク》虚栄心
赤系の花の多くは愛情や恋心を示すものですが、ユリに関しては「虚栄心」という意味が込められており、こちらもキリスト教と深い関係があります。
イエス・キリストが十字架にかけられる際のお話です。キリストの運命を嘆いた花達が頭を垂れる中、ユリの花だけはその美しさが慰めになるとして、誇らしげに頭を上げていました。しかし、キリストに見つめられると、ユリは自惚れであったことに気付き、赤くなって頭を下げてしまったのだそうです。
赤やピンクのユリの花は、非常に豪華さがあり美しいものですが、花言葉の持つ意味を考えると、赤やピンクのユリだけを花束にして贈るのは避けたほうが無難かもしれません。
《黄色》陽気、偽り
黄色のユリには、その鮮やかな色から連想される「陽気」という花言葉がある一方、「偽り」という相反する花言葉も存在します。これはヨーロッパ地域において、黄色は裏切りや下劣な行為を象徴する色と捉える風習があることが由来となっているようです。
黄色のユリは存在感があり、見る人に元気を与えてくれるような力強さを秘めた花でもあります。花束に選ぶ際には、ぜひとも良い意味を強調して使いたいものですね。
《オレンジ》華麗、愉快、軽率
オレンジ色のユリも黄色と同様で、花の見た目の印象を由来とした明るい意味の花言葉と、「軽率」というあまり良くない意味の花言葉を合わせ持っています。
こちらも西洋における色のイメージが由来とされており、先述のように赤は愛情、黄色は裏切りの色ですが、その中間色であるオレンジは「情熱的だがどこか軽々しい」といった両方の意味として考えられているようです。
《黒》愛、恋、呪い、復讐
標高2000m以上の山地で見られる、クロユリという花があります。花姿はユリとよく似ているのですが、こちらはユリ科バイモ属となり一般的なユリの花とは少し違うものです。
クロユリは、別称をエゾクロユリと言います。「エゾ」というだけあって、花言葉の「愛」や「恋」はアイヌ民族の伝説に由来します。アイヌの人々の間では、「好きな人の近くにクロユリの花を気付かれないように置き、相手が花を手にすれば、二人はやがて結ばれる」と伝えられていたそうです。
一方、「呪い」「復讐」といった恐ろしい意味については、戦国時代のこんな話が由来となっています。
越中国富山城の城主である佐々成政には、早百合姫という大変美しい側室がおりました。成政に寵愛されていた早百合姫は、やがてお腹に新しい命を授かります。しかし、これが何者かの嫉妬を呼び、「早百合姫が密通している、お腹の子は成政の子供ではない」という噂が流れたのです。逆上した成政は小百合姫を惨殺した挙句、彼女の一族までも磔刑としました。
早百合姫は命を落とす際に、「立山に黒いユリの花が咲いたら、佐々家は滅びるだろう」と呪いの言葉を残したと言います。そして数年後、成政は失政により切腹を命じられ、早百合の言葉どおりに佐々家は滅亡したのでした。
こうした言い伝えがあるだけでなく、黒は一般的にも不吉な色とされることが多い色です。クロユリは大変美しい花ではありますが、贈答用としては避けた方が良いでしょう。
種類別・ユリの花言葉
花の特徴として既にお話しましたが、ユリには非常に多くの品種があり、花言葉も品種によって違う意味が込められています。
また、ユリの品種によって、それぞれ異なる月日の誕生花ともされていますので、そちらもご紹介しておきたいと思います。
《カサブランカ》威厳、高貴、純潔、雄大な愛
カサブランカは1970年代にオランダで誕生した園芸品種で、日本原産のヤマユリやタモトユリなどを交配して作られました。華やかで気品に溢れたその花姿は、白ユリの中でもっとも美しいとされており、別名「ユリの女王」とも呼ばれています。
「威厳」や「高貴」は、まさしく女王にふさわしい花言葉ですよね。「純潔」については、先ほどお伝えした白いユリの花言葉に由来します。
美しい花姿と花言葉に込められた意味から、結婚式のブーケや贈り物として世界的に好まれている品種です。
《ヤマユリ》荘厳、威厳、人生の楽しみ
ヤマユリは、中部地方より北側の地域の山地に自生する日本原産のユリです。1m以上の草丈になる大型の品種で、花径20cmもの大きな花を10輪近く咲かせることから、「ユリの王様」という別名があります。
花言葉も「荘厳」「威厳」といった王様らしいもので、その堂々たる花姿に由来します。父親や恩師など、尊敬する人へ贈ると喜んでいただけるのではないでしょうか。
また、「人生の楽しみ」という花言葉は、ヤマユリが甘く濃厚な香りを放つことから生まれたと言われています。
《テッポウユリ》純潔、荘厳
九州や沖縄など、日本の温暖な地域を原産とするテッポウユリは、花の形からその名が付けられたと言います。
こちらも白色のユリやヤマユリと同じ花言葉がありますが、日本では墓地で見かけることが多い花のため、あまり良い印象を抱かない人もいるでしょう。花束として選ぶ際には、花言葉をメッセージカードに添えると良いかもしれませんね。
《オニユリ》賢者、華麗、陽気、愉快
オニユリは最大2mほどに生長し、茎の上部にオレンジ色の花をたくさん咲かせます。沖縄県以外では平地に自生していることが多く、その派手な花姿から簡単に見つけることができるでしょう。
いずれも明るい意味の花言葉ですので、世代や男女を問わず幅広い方への贈り物として選ぶことができそうですね。オニユリとよく似たクルマユリも、同じような花言葉を持っています。
《ササユリ》清浄、上品
ササユリはカサブランカやヤマユリのような豪華さはないものの、清らかで可憐な美しさが印象的です。本州の中部から九州にかけて自生する日本の固有種ですが、花を咲かせるまでに7年ほどかかるため、野生種は年々減少していると言われています。
そんなササユリの花言葉は「清浄」や「上品」と、女性に贈る花として最適な意味を持っています。
《誕生花》ユリは7月を代表する花
夏から秋口にかけて開花期を迎えるユリは、7月の代表的な誕生花とされています。もし大切な方の誕生日が7月ならば、プレゼントとともにユリの花を贈るのも素敵ですね。
ユリの色や種類ごとの誕生花は、以下のとおりです。
- 7月1日:ヒメユリ
- 7月2日:クルマユリ
- 7月10日:ヤマユリ
- 7月13日:テッポウユリ
- 7月15日:ササユリ
- 7月19日:黄色のユリ全般
- 7月31日:カサブランカ
- 8月2日:カノコユリ
- 8月11日:オトメユリ
- 9月1日:オニユリ
ユリを贈る際の注意点
ユリは非常に美しい花ではありますが、色や品種によって花言葉が異なるため、誰かにプレゼントする際には贈る相手やシーンを考慮する必要があるでしょう。
また、本数やユリの性質についても注意すべき点がいくつかありますので、贈り物にする際には参考にしていただければと思います。
1本のユリは不吉な意味
バラなどのように贈る本数別に意味のある花も存在しますが、ユリに関しては1本の場合のみ「死者に捧げる花」という良くない意味となります。
また、ユリのように下向きに咲く花は、「首が落ちる」として不吉とされることもありますので、お見舞いの花としては不向きです。
香りや花粉を嫌う人も
ユリは花姿だけでなく甘く濃厚な香りも楽しめる花ですが、中には香りが強すぎるという人もいるようです。最近では改良によって芳香の少ない品種もあるようなので、気になる方は生花店で相談してみましょう。
また、ユリは下向きに咲くため花粉が落ちやすく、花につくと見た目の美しさが損なわれてしまいます。そればかりか花粉で服を汚してしまうこともあり、一度ついた汚れを落とすのは難しいものです。
プレゼントにする際には花粉を取る、またはおしべの先端を切るなど、花粉が落ちないような処理をしてから渡すことをおすすめします。
まとめ
いかがでしたか?
今回の記事では、ユリの花の持つ魅力や花言葉についてお伝えしてきました。大ぶりで豪華な印象のユリは、冠婚葬祭やお祝い事など幅広いシーンに彩りを添えてくれる花ではありますが、不吉や皮肉に感じられる花言葉を持っているものもありますので、贈り物として選ぶ際には気を付けてくださいね。
また、日本でも自生しているユリは比較的育てやすい品種も多く、 ガーデニングを楽しむ方の間でも人気の高い花です。興味のある方はご自身で育ててみると、さらにユリの美しさや香りを堪能することができるのではないでしょうか。
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